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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)5298号 判決 1977年3月24日

原告

日下正一

被告

東京税理士会

右代表者会長

波多野重雄

外五名

右被告六名訴訟代理人

田中政義

田中学

主文

一  原告の被告東京税理士会に対する請求のうち、原告が訴外東京税理士協同組合の組合員でないこと、および訴外日本税理士政治連盟の会員でないことの確認を求める部分につき訴えを却下する。

二  原告の被告東京税理士会に対するその余の請求を棄却する。

三  <省略>

四  訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

第一被告会に対する請求

被告会が税理士法に基づいて東京国税局の管轄区域内に事務所を置く税理士を会員とする法人であり、原告が昭和三九年七月一日被告会に入会し、現にその会員であることは、当事者間に争いがない。

一(会館建設費および特別会費についての債務不存在の確認請求について)

1  原告が独立して税理士業務を営む会員であるところ、昭和四二年六月二八日開催の被告会第一一回定期総会において、会則の一部を変更し、独立して税理士業務を営む会員は、各自、会館建設費二〇、〇〇〇円、特別会費二〇、〇〇〇円、会計四〇、〇〇〇円を負担する旨の決議がなされた外形的事実が存在し、右決議およびこれに基づき変更された会則には同旨の規定がなされていることは、当事者間に争いがない。

2  そこで、まず、右決議が適法になされたか否かを検討する。<証拠>を総合すると、

(一) 昭和四二年六月二八日当時の被告会の会則には、会則の変更は総会の決議によるものとし、かつ、議決の要件として会員総数の二分の一以上が出席し、その出席者の三分の二以上の賛成を要する特別決議によらなければならないとの規定(二九条二号、二七条二項一号)が設けられていたこと(この事実は当事者間に争いがない。)および会員で総会に出席できない者は、あらかじめ議案について賛否の意見を明らかにした書面をもつて出席する会員に委任して議決権を行使することができ、その場合には、右委任をした者は総会に出席したものとみなされるとの規定(二八条)が存したこと、

(二) 被告会は、所定の手続を総て昭和四二年六月二八日、当時の会員四、八三〇名のうち、本人出席一五六名(この事実は当事者間に争いがない。)、委任状出席二、四六二名の合計二、六一八名の出席者を得て第一一回定期総会を開催し、同総会において、独立して税理士業務を営む会員は、被告会の会館建設のため、会館建設費二〇、〇〇〇円および特別会費二〇、〇〇〇円、合計四〇、〇〇〇円を負担する旨の「税理士制度二五周年記念行事として会館を建設することを承認する件」と題する議案(第四号議案)および会則五〇条の二項に「会員は、会館建設費として二〇、〇〇〇円を負担する」との条項を付加し、新たに第五〇条の二に「会員は特別の支出にあてるため特別会費を負担する。その目的、金額、納期および償還については、総会の決議によりこれを定める」との条項を設ける旨の「会則の一部変更案承認の件」と題する議案(第五号議案)について審議がなされたうえ、第四号議案については、賛成二、一二八名、反対四四五名、賛否の意見のない者四五名により、第五号議案については、賛成二、二二一名、反対三三五名、賛否の意見のないもの六二名により、それぞれ特別決議に要する一、七四五名(出席者二、六一八名の三分の二にあたる数)を越える同意を得て可決承認されたこと、

が認められ、これに反する<証拠>は、前掲各証拠に照らし措信することはできず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(三) 以上の認定事実および前記当事者間に争いのない事実によれば、被告会の第一一回定期総会における右決議は被告会の会則に則り、適法になされたものというべきであり、原告主張の会則違反の事実は存しない。

3  原告は、被告会は上記の会則変更につき、主務官庁たる大蔵大臣の認可を受けていないから無効であると主張する。しかしながら、税理士会は税理士法に基づいて設立された特殊法人であるから、認可の要否についてはまず同法が適法されると解すべきところ、税理士法第四九条の二第三項、同法施行令第七条の二第一項によると税理士会の会則変更について大蔵大臣の認可を要するのは、入会および退会に関する規定、会議に関する規定、税理士の品位保持に関する規定に限られ、会費および特別会費の負担に関する会則規定の変更は大蔵大臣の認可を必要としないことは、右規定上明らかである。したがつて、右会則の変更につき大蔵大臣の認可を必要とすることを前提とし、民法第三八条違反をいう原告の主張は、その前提を欠き理由がない。なお、原告は、右決議は被告会会則二七条、二九条、民法第三八条に違反するから、憲法第二一条、第二二条、第二九条にも違反すると主張するが、右決議に被告会の会則違反または民法第三八条違反が認められないこと前記のとおりであるから、この主張もその前提を欠き理由がない。

4  つぎに、右会館建設費および特別会費が被告会の新会館を建設する資金として用いられるものであつたことは当事者間に争いがないところ、原告は、新会館建設は被告会の目的遂行のため必要でないから、これを対象とする会則規定はその効力を生じないと主張する。

しかし、およそ法人がその目的を遂行するうえにおいて、人的物的設備を保有することは必要不可欠のことであつて、物的設備の一つとして事務所を設置し得ることは、法人の目的の如何によらずことの性質上当然の要請といわなければならない。そして、事務所となるべき施設を何処に、どのような規模で設けるか、あるいは、自ら所有して使用するか、賃借して使用するか等の点については、当該法人が当該法人の規模、使用目的、必要性の程度や利用頻度、その他諸般の事情を総合勘案して自ら決定すべき事柄である。このことは被告会の場合も同様であつて、<証拠>によれば第一一回定期総会開催の時点において現に旧会館が存在したが、なお事務所設置のため新会館を建設する必要があるものと判断されて決議がなされたことが窺えるから、その当否は被告会の自律に委ねれば足り、新会館を建設すること自体を被告会の目的外の事項であるということはあたらない。法人の目的となるべき事項を遂行するのに必要な諸経費についてその構成員がこれを負担すべきことは、当該法人が強制加入の性格をもつと否とにかかわらず、すべての法人に通ずる原則であるから、被告会が前記決議によつて新会館建設の為の資金を会員である原告らの負担としたからといつて、右決議が無効ということはできないものである。

5  また、原告は、前記会則は費用の負担に応ずる資力を欠く者に対しても、これを負担させるものであるから、その効力を有しないと主張し、その方式および趣旨により真正に成立した公文書と認めうる<証拠>によると、原告は昭和三八年から同四〇年までの間、所得税は申告通り納付税額なし、とされていることが認められるが、資力がないからといつて、前記決議に基づく費用の負担義務を当然免れる根拠は見出せないから、原告の主張は理由がない。

なお、原告は右会館建設費は寄附金に、同特別会費は消費貸借に相当し、原告の同意がない以上、これを支払う義務はない旨主張するけれども、右会館建設費等は前記決議に基づき会員の負担とされた費用であるから、同意の有無にかかわらず、会員はこれを納入しなければならないものである。したがつて、以上と前提を異にする原告の右主張は採りえない。

6  そうすると、原告は、被告会に対し、会館建設費として二〇、〇〇〇円および特別会費として二〇、〇〇〇円をそれぞれ支払う義務を負うものといわなければならず、右債務の不存在確認を求める原告の請求は理由がない。

二(第一二回定期総会の決議無効および会費の一部不存在の各確認請求について)

1  昭和四三年六月二八日開催の被告会第一二回定期総会において、会則の一部変更および互助規則の制定を行ない従来の会費が一事業年度について一六、〇〇〇円であつたのを変更して、会員は会費として、通常会費二六、〇〇〇円、互助会費四、〇〇〇円、合計三〇、〇〇〇円を負担する旨の決議がなされた外形的事実が存在し、右決議により変更された会則には同旨の規定が存することは、当事者間に争いがない。

2  そこで、まず、右決議が適法になされたか否かを判断する。<証拠>を総合すると

(一) 昭和四三年六月二八日当時前記一2(一)記載のような被告会の総会決議に関する諸規定が存したこと(この事実は、当事者間に争いがない)

(二) 被告会は、所定の手続を経て、昭和四三年六月二八日、当時の会員五、二〇六名のうち、開会時において本人出席一五九名(この事実は当事者間に争いがない。)、委任状出席二、七九五名の合計二、九五四名の出席者を得て、第一二回定期総会を開催し、同総会において、会則第五〇条一項を「会員は、会費として、一事業年度につき通常会費二六、〇〇〇円、互助会費四、〇〇〇円を負担する」と変更することを内容とする「会則の一部変更承認の件」(第五号議案)および「互助規則制定承認の件」(第六号議案)について審議がなされたうえ、第五号議案については、賛成二、六二二名、反対四二〇名、保留三名により、第六号議案については、賛成二、八六九名、反対一七五名、保留一名により、それぞれ特別決議に要する二、〇三〇名(出席者三、〇四五名の三分の二にあたる数)を越える同意を得て可決承認されたこと、

が認められ、これに反する<証拠>は、前掲各証拠に照らし、措信することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

3  以上の認定事実および前記当事者間に争いがない事実によれば、被告会の第一二回定期総会における右決議は被告会の会則に則り、適法になされたものというべきであり、原告主張の会則違反は存しない。

また、右決議に基づく会則の変更は、主務大臣の認可を必要とするものではなく、民法第三八条に違反するものでないことは、前記一3記載のとおりであるから、同条違反をいう原告の主張も理由がない。また、原告は、右決議は被告会会則第二七条、第二八条、民法第三八条に違反するから、憲法第一九条にも違反すると主張するが、右決議に被告会の会則違反または民法第三八条違反が認められないこと前記のとおりであるから、この主張もその前提を欠き理由がない。

4  つぎに、右通常会費の増額分一〇、〇〇〇円のうち、三、五〇〇円および互助会費四、〇〇〇円の使途については当事者間に争いがないところ、原告は、そのうち、労務士対策費五〇〇円、商法対策費一、〇〇〇円は、いずれも被告会の目的とは何ら関係のない事項への支出を目的とするものであり、訴外東京税理士協同組合出資金一、〇〇〇円、同日本税理士政治連盟会費一、〇〇〇円は、いずれも被告会とは別個の、しかも、原告が加入する意思のない団体への支出を目的とし、また、互助会費四、〇〇〇円も右同様加入の意思がないものへの支出を目的とするものであるから、そのような内容を含む通常会費増額分一〇、〇〇〇円および互助会費四、〇〇〇円を負担させる前記決議はその効力を生ぜず、原告は右会費を支払う義務はない旨主張するので、この点について検討する。

(一) 前記当事者間に争いがない事実に、<証拠>を総合すると、

(1) 被告会は通常会費の増額分一〇、〇〇〇円のうち三、五〇〇円を業務改繕費として使用することを予定していたこと、

(2) 右業務改繕費三、五〇〇円の使途は、労務士対策費として五〇〇円、商法対策費(商法改正に反対する運動等のための費用)として一、〇〇〇円、東京税理士協同組合出資金および日本税理士政治連盟会費として各一、〇〇〇円であつて、前二者は日本税理士会連合会に対してその会員である被告会が負担する分担会であること、

(3) 訴外東京税理士協同組合出資金は、被告会の会員である小規模の事業者を組合員として、その自主的な経済的な活動を促進し、かつその経済的地位の向上をはかることを目的とし、事業資金の貸出し等をその事業内容とする被告会とは別に組織された協同組合に対する出資金であること、

(4) 同日本税理士政治連盟会費は税理士会に入会している税理士を主な会員としてその政治意識の高揚をはかることを目的とし、その為に必要な政治活動等を営む、被告会とは別に組織された団体に対する会費であること、

(5) 互助会費は、昭和四三年六月二八日開催の被告会第一二回定期総会において変更された会則第五〇条一項により会費として負担することとなつたものであるが、通常会費とは異なり、特定の目的のために支出されることが頭初から予定されている会費であること、

(6) 被告会は、右決議に基づいて変更された会則第三条一項五号、第六一条、右総会において制定された互助規則に基づいて、従来、被告会とは別個の任意団体が行なつてきた互助活動を被告会の事業の一つとして取り込んだこと、

が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(二) 以上の事実によると、互助会費四、〇〇〇円は被告会会則で定める事業の一つに要する費用の負担であるから、当然原告ら会員において負担すべきものである。また、通常会費増額分の右認定の使途が被告会の目的事業と関連性をもたないとしても、通常の会費をどのような目的のために、どの程度支出するかは被告会が予算案の作成および承認という手続を介することにより、被告会の目的および事業との開連性の有無、程度、その他諸般の事情を判断することによつて自ら決定すべき事柄であつて、右手続を経て総会において可決承認された会費の支出対象事項が被告会の目的と関連性がないからといつて、そのことから直ちに、右会費を会員に負担させる決議そのものが無効となるものではない。そして、被告会の会員は会則遵守の義務があり、総会の決議によつて会則の一部が変更された場合には、右会則を変更することに反対の会員であつても、これに従うのが当然であつて、右変更された会則が被告会の活動の諸費用を賄う通常会費に関する規定である場合には、右規定に従つて定められた会費を納入するという会員の基本的な義務を免れることはできないものと解するのが相当である。

5  そうすると、前記決議は無効ということはできず、原告は被告会に対し昭和四三年度以降一事業年度につき一六、〇〇〇円を越える会費を支払う義務があるから、右決議の無効および昭和四三年度以降の被告会の一事業年度の会費のうち一六、〇〇〇円を越える部分の債務は不存在であるとの原告の請求は理由がない。

三(東京税理士協同組合の組合員でないこと、および日本税理士政治連盟の会員でないことの各確認請求について)

訴外東京税理士協同組合が、被告会の会員である小規模の事業者を組合員とし、その自主的な経済的活動を促進し、かつ、その経済的地位の向上をはかる目的のもとに、事業資金の貸出し等の事業を行なう、被告会とは別個の団体であること、訴外日本税理士政治連盟が、税理士会に入会している税理士を会員として組織された、会員の政治意識の高揚をはかることを目的とし、政治活動を行なう団体であつて、被告会とは別個の団体であることは、前記認定のとおりである。ところで、原告は右両団体を相手方とすることなく、被告会に対して、原告が両団体の組合員および会員でないことの確認を求めているが、右両団体を当事者とすることなく、当該団体の組合員および会員でないことの確認を求める訴えを提起することは、たとえ請求を認容する判決が得られても、その効力が当該団体に及ばず、同団体との間では何人も右判決に反する法律関係を主張することを妨げられないから、右構成員の地位をめぐる関係当事者間の紛争を根本的に解決する手段として有効適切な方法ということはできない。したがつて、このような訴えは、即時確定の利益を欠き、不適法な訴えとして却下を免れない。

(以下略)

第二<省略>

第三結論

以上の次第で、原告の被告会に対する本訴請求のうち、原告が訴外東京税理士協同組合の組合員でないこと、および同日本税理士政治連盟の会員でないことの確認を求める各訴えは不適法としてこれを却下し、その余の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、被告溝田久子、同溝田澄重、同溝田主税、同野上京子、同長島徳太郎に対する請求は、いずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(柳川俊一 長野益三 川島貴志郎)

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